漫画としてのテニスの王子様の面白さを振り返る

いや〜リョーマ!よかったですね〜!!!!テニスの王子様22年間の集大成というべき映画で、テニスの王子様を構築する概念が全て詰まっていてサイコーでした。

本当に良すぎて「テニスの王子様ってめちゃくちゃ面白い漫画なんだ」という事実を改めて再確認したので、休みを2日使って改めてテニスの王子様をじっくり読むと、本当に面白かったので、個人的に思ったテニスの王子様のめちゃくちゃ面白いポイントを勝手に書きます。

ちなみに読んでること前提なので、ネタバレガンガンします。しかも私は漫画について詳しいとか言うわけじゃないのでただのいちファンの意見です。漫画に詳しい人だともっと凄さがわかるかもしれない。



「ストーリー構築の手腕」


前提として、青学というチームって最初から普通に強いんですよ。作中最強キャラである手塚国光、天才と名高い不二周助、全国区と言われるダブルスコンビ、ゴールデンペアを抱えていることから、月間プロテニスの井上さんも「立海にも挑めるかもしれない」とコメントしています。勝てるとは言ってないのがめちゃくちゃ巧妙だなと思うんですが、すでに全国大会へ行けるような戦力が揃っていて、なんか一歩足んないよな〜という現状に越前リョーマが加わることで、青学が全国優勝するというストーリーがテニスの王子様な訳です。


つまり、ストーリー全体を通して

①すでに実力者である青学メンツの顔を立てながら、読者に「このキャラ弱くね?」と感じさせないように巧妙に負けさせる。

②テニスの団体戦全体としてハラハラする勝敗を組み立てる

③主人公、越前リョーマの見せ場を作りつづける。

④試合の中身も面白く描く

以上の4点を同時にやってのけています。

特に青学の実力だとまず間違いなく通過できるであろう、地区予選、都大会辺りは、特に「このキャラ弱くね?」と感じさせないように負けさせる、苦戦させる工夫をすることで、試合展開を盛り上げることが徹底されています。


例えば、越前リョーマをシングルスではなく、プレイ経験のないダブルスで出場させたり、試合中の事故で片目しか使えない状況にしたり、左利きの越前に「左殺し」と言われる選手をぶつけたり、あの手この手で越前リョーマの力を削いで出場させています。また、その度に新たな越前リョーマのプレイスタイルや技を描くことで、越前リョーマつえ〜!と読者に思わせることが出来ています。


最強キャラであるが故に序盤は扱いに困るであろう手塚国光は、地区予選、都大会までは手塚まで試合が回って来る前に決着をつけることで、他の青学メンバーの試合描写を増やし、強さを読者に伝え、同時に手塚を謎多き選手にすることに成功しています。

また肘を故障している設定にすることで、読者に違和感を与える事なく試合数を抑え、さらに、ある程度越前リョーマの強さが描かれた段階で、越前リョーマと野試合させ、勝たせる事で、それ以降越前リョーマの強さが描かれるたびに、手塚が試合をせずとも、手塚の株も上がるシステムを組みました。

 

その後も関東大会全国の間でも、ストーリーの手腕を感じるところはめちゃくちゃあるんですが、書き切れないんで置いときます。金ちゃんと越前リョーマを公式戦で戦わせないとか個人的に神采配だと思うんですよ


「従来の固定概念を破壊するキャラクター」


かなりのキャラクター数を誇るテニプリですが、当時の漫画の固定概念を潰して出てきたキャラクターが数多くいます。ここでは特に「新しいな〜」と感じたキャラクターをピックアップしようかなと思います。跡部景吾伝説とか菊丸英二伝説とかを出すとキリがないので、ここではあくまで漫画として新しかったキャラを上げます。


忍足侑士


忍足侑士を語るには、まず「関西弁のキャライメージ固定されすぎじゃね問題」を紐解かないといけません。長くなるぞ。

私が25年生きてきて、生まれも育ちも大阪なので、関西弁のキャラクターはすごく目につくんですが、関西弁のキャラクターの固定概念は全然更新されないな、と思っています。もちろん固定概念に収まらない関西弁キャラもいるといえばいると思うんですが、絶対みんなパッと言えないでしょ!!!パワフル系じゃなくて、声が大きくなくて、お笑い系じゃなくて、胡散臭くなくて、お金にがめつくなくて、糸目じゃない関西弁のキャラ!!!!


忍足侑士は、2021年になっても全然更新されない関西弁キャラの固定概念を21年前にぶっ潰して出てきたキャラクターです。テニスの王子様で初めて出てきた関西弁のキャラクターなんですが、関西弁なのに、落ち着いた優しい大人のような包容力を持ち、クレバーなプレイスタイル、喋り口調も声を張らない吐息混じりのウィスパーボイス、今でも衝撃のキャラクターです。


関西弁のキャラクターは、キャラクターのパーソナルな部分より先に、関西という要素が先あって、その後にキャラクターのパーソナルな部分を作ったな、関西ありきのキャラクターだな、と感じることが多いんですが、忍足侑士は、普通の人間と同じように、忍足侑士のパーソナルな部分があったのちに、忍足侑士を構築する背景として関西出身というのがある。これはどっちがいいとかでは無いんですが、固定概念をぶち壊したという意味で忍足侑士がこの世に産まれた功績は大きいと思います。産まれてきてくれてサンキュー。



乾貞治

データキャラは敵で出てくる。などデータキャラに対する幾つかの法則をぶっ潰したキャラクターです。

その当時、データキャラって漫画では、主人公側に戦いの中で成長されて負ける役割が殆どだった気がします。やられた後に味方になるパターンはあれど、最初っからデータキャラが味方のパターンはまあ少なかった印象です。あと大体物語の後半は説明するだけの説明要因になりがち。理由は明白で、データキャラだけの要素だとやれることに限りがあるので、使い辛いんですよね。データキャラはやられ役の方が輝くんです。

そこで、データマンの要素をより掘り下げて、より厚みを増やしたのが、乾貞治です。皆より3倍の練習をこなしていた努力家の代名詞、海堂のまたさらに2.25倍の練習をこなす努力家、また、データを用いた教え導く者としても優秀で、あのこだわりが強い海堂を導いて成長を促しています。海堂は時期部長にもなることから、乾貞治が優秀であることが読み取れます。さらに、もう自分が負ければもう後がない試合で、過去の因縁を精算するため、4年前と全く同じ試合展開を繰り返してみせた試合の見せ方もデータキャラならではの描かれ方でした。

この試合で乾が勝ち、それを皮切りに青学の逆転がはじまるなど、乾の試合をきっかけに熱い展開になるパターンは幾つがあります。データキャラなのにアツい男なんですよ乾貞治は〜!!!!!!!!それでいてギャグもできる、ズルくね〜???!!出来ないことがない。

乾貞治は紛れもなく、データキャラを保ったまま、データキャラはやられ役しかない、の固定概念を壊してくれたキャラクターだと思います。



「試合のマンネリを防ぐ」


許斐先生は「テニスってそもそも試合が面白いんだから試合沢山描いてナンボでしょ!」という考えなので、新技会得のための修行編などはありません。42巻ほぼ試合で構築された漫画です。

しかも、テニスには野球のホームラン、バスケの3ポイントのような一気に点数が入るようなルールがないので、どんなに凄い技を持ち、それが決まろうが1ポイントにしかなりません。テニスのルール上、結局は地道にポイントを重ねてゲームを取り合う展開になる訳です。


テニスの王子様は始終、その地道なポイント、ゲームの取り合いをいかに絵的に派手に見せるか、にこだわって描かれており、一件荒唐無稽とも思われるオモシロ技もそれに一役買っています。


いつだったか許斐先生が「ジャンプではやっぱりファンタジーが強い。実際ファンタジー漫画は派手な技が出たり、カッコよくて面白いので。その中でテニス漫画がカッコいい、面白いと思ってもらうためには、ファンタジー的な要素もあったほうが読者に喜んでもらえる」みたいなことを語ったことがありました。どこか忘れたけど、ラジオかな。

実際、ネット炎上とか、謎に光る球とか、打球を弾き出して強制的にアウトにしたりとか、デカすぎんだろとか、テニスの王子様を読んでないであろう層にもオモシロ技がちょくちょく話題になっていたり、ストーリーは知らないけど、オモシロ技だけは知っている人たちがいるのは、許斐先生の戦略が成功している証だと思います。

オモシロ技はただただぶっ飛んだことを描いている訳ではなく、ファンタジー漫画への挑戦や、それをきっかけに読む層を増やすこと、地道なポイント、ゲームの取り合いが続くテニスというスポーツを派手に見せ、読者に飽きさせずに試合を読ませるための一つの策だと捉えています。いや、実際どういうつもりで描いてるかは知らんけど。ちなみに私が一番驚いたのは、なんの理屈もなく急にブラックホールを生み出した時です。嘘だろ。


【まとめ】

ここまで書いて気づいたんですが、テニスの王子様はめちゃくちゃな展開を迎えているように見えて、その実めちゃくちゃ緻密に考えられたストーリー構築があってこそだなと思いました。まだまだ面白いところはあるんですけど、休みがこれで終わるのでとりあえずここで畳みます。思い出したらまた追記するかもしれない。私が読み返す用の記事なので。